とした。畑で桑など摘《つ》んでいると、彼はどんな遠いところで、忙《せわ》しい用事に働いている時でも、彼女を見廻ることを忘れなかった。彼はその頃から、働くことが面白そうであった。叔父夫婦にも従順であった。お島は一層それが不快であった。
 おとらが内々《ないない》お島の婿にしようと企てているらしい或若い男の兄が、その頃おとらのところへ入浸《いりびた》っていた。青柳と云うその男は、その町の開業医として可也《かなり》に顔が売れていたが、或私立学校を卒業したというその弟をも、お島はちょいちょい見かけて知っていた。
 気爽《きさく》で酒のお酌などの巧いおとらは、夫の留守などに訪ねてくる青柳を、よく奥へ通して銚子《ちょうし》のお燗《かん》をしたりしているのを、お島は時々見かけた。一日かかって四十|把《ぱ》の楮《かぞ》を漉《す》くのは、普通|一人前《いちにんまえ》の極度の仕事であったが、おとらは働くとなると、それを八十把も漉くほどの働きものであった。そして人のいい夫を其方退《そっちの》けにして、傭い人を見張ったり、金の貸出方《かしだしかた》や取立方《とりたてかた》に抜目のない頭脳《あたま》を働かしてい
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