奥へ引込んで行った。精米所の主人の前には、直に銚子《ちょうし》がつけられて、上さんがお酌をしはじめた。
「あれを知らねえのかい。お前も余程《よっぽど》間ぬけだな」
兄はその主人と上さんとの間《なか》を、お島に言って聞せた。
「あの家も、精米所のお蔭で持っているのさ。だから爺さんも目をつぶって、見ているんだ」
兄はそうも言った。
五十
旦那を鉱山《やま》へ還してから、女が一里半程の道を俥《くるま》に乗って、壮太郎のところへ遣《や》って来るのは、大抵月曜日の午前であった。
家が近所にあったところから、幼《ちいさ》いおりの馴染《なじみ》であった、おかなと云うその女が、まだ東京で商売に出ている時分、兄は女の名前を腕に鏤《えり》つけなどして、嬉しがっていた。そして女の跡を追うて、此処《ここ》へ来た頃には、上《かみ》さんまで実家《さと》へ返して、父親からは準禁治産の形ですっかり見限《みきり》をつけられていた。
日本橋辺にいたことのあるおかなは、痩《やせ》ぎすな躯《がら》の小《ちいさ》い女であったが、東京では立行かなくなって、T――町へ来てからは、体も芸も一層|荒《すさ》んで
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