かけない山麓《さんろく》の傾斜面に痩《や》せた田畑があったり、厚い薮畳《やぶだたみ》の蔭に、人家があったりした。
 その町へ着くまでに、汽車は寂しい停車場に、三度も四度も駐《とどま》った。東京の居周《いまわり》に見なれている町よりも美しい町が、自然の威圧に怯《お》じ疲れて、口も利《き》けないようなお島の目に異様に映った。
「へえ、こんな処にもこんな人がいるのかね」お島は不思議そうに、そこに見えている人達の姿を凝視《みつ》めた。
 S――と云うその町へ入った時にも、小雨がしとしとと降そそいでいた。停車場を出て橋を一つ渡ると、直ぐそこに町端《まちはな》らしい休茶屋や、運送屋の軒に続いて燻《くすぶ》りきった旅籠屋《はたごや》が、二三軒目についた。石楠花《しゃくなげ》や岩松などの植木を出してある店屋《みせや》もあった。壮太郎とお島とは、そこを俥《くるま》で通って行った。
 町はどこも彼処《かしこ》も、闃寂《ひっそり》していた。
 俥は直《じき》に大通の真中へ出ていった。そこに石造の門口を閉《とざ》した旅館があったり、大きな用水桶《ようすいおけ》をひかえた銀行や、半鐘を備えつけた警察署があったり
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