《ふ》けて来ると、店を片着けにかかっている物音が聞えたりして、鶴さんはやがて茶の間へ入って来た。お島は気持わるく壊《くず》れた髪を、束髪に結直して、長火鉢の傍へ来て坐ってみたりしていたが、頭脳《あたま》がぴんぴん痛みだして来たので、鶴さんが二階へ上って来る時分には、彼女《かれ》もいつか蒲団《ふとん》を引被《ひっかつ》いで寝ていた。
「お先へ失礼しましたよ。何だか気分がわるいので」お島はそう言いながら、呻吟声《うめきごえ》を立てていた。
 鶴さんは床についてからも、白い細長い手を出して、今朝から見るひまもなかった新聞を、かさこそ音を立てて、彼方《あっち》かえし此方《こっち》返しして読んでいるらしかったが、するうちに、それを投《ほう》りだして、枕につくかと思っていると、ぱちんと云う音がして、折鞄を開けて、何か取出したらしかった。後は闃寂《ひっそり》して、下の茶《ちゃ》の室《ま》の簷端《のきば》につるしてある鈴虫の声が時々耳につくだけであった。
 お島は後向になったまま、何をするかと神経を研《とぎ》すましていたが、今まで懈《だる》くて為方のなかった目までが、ぽっかり開《あ》いて来た。そして、
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