た木陰から見える玄関には、灯影《ほかげ》一つ洩れていなかった。お島は※[#「※」は「木+要」、第4水準2−15−13、73−15]《かなめ》と欅《けやき》の木とで、二重になっている外囲《そとがこい》の周《まわり》を、其方《そっち》こっち廻ってみたが、何のこともなかった。
 車で家へ帰ったのは、大分おそかった。
「お帰んなさい」
 店のもの二三人に声をかけられながら、車から降りると、奥の方の帳場に坐っている鶴さんの顔が、ちらと見えたので、お島は漸《やっ》と胸一杯に安心と歓喜《よろこび》との溢《あふ》れて来るのを感じたが、矢張《やっぱり》声をかける気になれなかった。
 上ってみると、二階は出ていった時、取散していったままであった。脱棄《ぬぎすて》が投出《ほうりだ》してあったり、蔽《おお》いをとられたままの箪笥《たんす》の上の鏡に、疲れた自分の顔が映ったりした。お島はその前に立って、物足りぬ思いに暫くぼんやりしていた。

     三十九

 お島は二三度|階下《した》へおりてみたけれど、鶴さんは、いつまで経《た》っても、帳場から離れて来る様子もなかった。そのうちに表が段々静になって、夜が更
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