事しちゃいられないのだっけ。店のものが皆《みん》な私を待っているでしょう」お島は蚊帳《かや》のなかで子供を寝《ねか》しつけている、姉の枕元で想出したように言出した。
「良人《うち》はあんなだし、私でもいなかった日には、一日だって店が立行きませんよ」
「今度あばれちゃ駄目よ」姉は出てゆくお島を送出しながら言った。
「どうもお騒がせして相済みません」お島は何のこともなかったような顔をして、外へ出たが、鶴さんがまだ植源にいるような気がして、素直に家へ帰る気にはなれなかった。
 外はすっかり暮れてしまって、茶の木畑や山茶花《さざんか》などの木立の多い、その界隈《かいわい》は閑寂《ひっそり》していた。お島の足は惹寄《ひきよ》せられるように、植源の方へ歩いていった。「鶴さんも可哀そうよ」そう言ってお島を窘《たしな》めたおゆうの目顔が、まだ目についていた。北海道の女よりも、稚馴染《おさななじみ》のおゆうの方に、暗い多くの疑がかかっていた。
 大きな石の門のうえに、植源と出ている軒燈《けんとう》の下に突立って、やがてお島は家の方の気勢《けはい》に神経を澄したが、石を敷つめた門のうちの両側に、枝を差交し
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