リツプ……一体どんな花だらう?』と、そのことばかり考へてゐた。
 そのうち夕方になつた。で、店をたゝんで狐光老は、ぶら/\車をひいて野毛通りを歩いて行つた。ふと気がつくと、すぐ目の前に大きな花屋があつた。彼は急いで車を止めると、つか/\店の中へはいつて行つた。そして、
『チユウリツプはあるかい?』
 ときいた。
『ございます。』と、すぐ店の者がチユウリツプを持つて来た。見ると、さつき自分の造つたものとは、似ても似つかぬ花であつた。
『いけねえ、とんでもないものを拵へちまつた。』
 と、狐光老は、その花を買つて家に帰つた。そしてその晩、彼はチユウリツプの花の造り方に就いておそくまで研究した。
 さて翌日、狐光老は、また昨日の場所へ店を出した。そして十杯あまり、大鉢のチユウリツプを造つて、屋台の上段へ、ずらり、人目をひくやうに並べておいた。
 三時頃、また昨日の女生徒が三人並んで通りかゝつた。と、彼女達は、早くも棚のチユウリツプに目をつけて、
『あら、チユウリツプがあるわ。』
 と、急いで店の前へ寄つて来た。
『小父さん、これチユウリツプつていふのよ。』
 と、そのうちの一人が、花を指さし
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