ウリツプの註文をした。然し此時、俄然よわつたのは狐光老だつた。何を隠さう、彼はチユウリツプの花を知らなかつた。『チユウリツプ、チユウリツプ、きいたやうな名だが……。』と二三度口の中で繰返したが、てんで[#「てんで」に傍点]、どんな花だか見当さえつかなかつた。
といつて今更、なんでも出来ると豪語した手前、それは知らぬとは到底いへないところである。
『ようし、勇敢にやつちまへ。』
と決心がつくと、やをらしん粉に手をかけて、またゝく暇に植木鉢に三杯、チユウリツプ ? の花を造り上げた。が、それは、むろん狐光老とつさ[#「とつさ」に傍点]に創作したところのチユウリツプで、桃の花とも桜の花ともつかない、実にへんてこ[#「へんてこ」に傍点]な花であつた。
『さあ出来上つた。どうみてもほんものゝのチユウリツプそつくりだらう。』
と、狐光老は、それを女生徒達の前にさし出した。女生徒達は、あつけ[#「あつけ」に傍点]にとられた顔つきでそれを受けとると、
『うふゝ。』
『うふゝ。』
と、顔見合せて笑ひながら、おとなしく鉢を手にして帰つて行つた。が、後に残った狐光老はどうにも落付けなかつた。『チユウ
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