ゃ、いけません、恐ろしい事です』と申します。私も『こんな恐ろしいような伝説のあるところには、何か恐ろしい事が潜んで居るから』と申して諌めるのです。ヘルンは『しかし、この綺麗な水と、蒼黒く何万尺あるか知れないように深そうなところ、大層面白い』と云うので、泳ぎたくてならなかったのですが、遂に止めました。へルンは止めながら大不平でした。残念と云うので、翌日まで物も云わないで、残念がっていました。数日後の話に『皆人が悪いと云うところで、私泳ぎましたが過ありません。ただあの時、ある時海に入りますと体が焼けるようでした。間もなく熱がひどく出ました。それと、あゝあの時です、二人で泳ぎました、一人は急に見えなくなりました。同時に大きな鮫の尾が私の直ぐ前に出ました』と申しました。
 松江の頃は未だ年も若く中々元気でした。西印度の事を思い出してよく私に『西印度を見せて上げたいものだ』と申しました。
 二十四年の夏休みに、西田さんと杵築の大社へ参詣致しました。ついた翌日、私にも直ぐ来てくれと手紙をくれましたので、その宿に参りますと、両人共海に行った留守でした。お金は靴足袋に入れてほうり出してありまして、銀貨
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