に移りまして一家を持ちました。
 私共と女中と小猫とで引越しました。この小猫はその年の春未だ寒さの身にしむ頃の事でした、ある夕方、私が軒端に立って、湖の夕方の景色を眺めていますと、直ぐ下の渚で四五人のいたずら子供が、小さい猫の児を水に沈めては上げ、上げては沈めして苛めて居るのです。私は子供達に、御詫をして宅につれて帰りまして、その話を致しますと『おゝ可哀相の小猫むごい子供ですね――』と云いながら、そのびっしょり濡れてぶるぶるふるえて居るのを、そのまま自分の懐に入れて暖めてやるのです。その時私は大層感心致しました。
 北堀の屋敷に移りましてからは、湖の好い眺望はありませんでしたが、市街の騒々しいのを離れ、門の前には川が流れて、その向う岸の森の間から、御城の天主閣の頂上が少し見えます。屋敷は前と違い、士族屋敷ですから上品で、玄関から部屋部屋の具合がよくできていました。山を背にして、庭があります、この庭が大層気に入りまして、浴衣で庭下駄で散歩して、喜んでいました。山で鳴く山鳩や、日暮れ方にのそりのそりと出てくる蟇がよい御友達でした。テテポッポ、カカポッポと山鳩が鳴くと松江では申します、その山
前へ 次へ
全64ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小泉 節子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング