つが合致した時に犯人を決定するのです。しかしこの二つが合致しているのに、被告の精神状態を疑っていたりしていた日には、裁判はできませんからねえ。でも、こんどの事件は、もともと過失ですから、御子息の罪は大したこともなかろうと私は考えるのです。が、検事の方ではこの事件を過失と認めておらんようでもあり、それに検事の言い分にも聞いてみれば一応道理があるのでしてね……」
「では、せがれが、故意に大それた殺人を犯したとでもいうのですね、過失でさえもないというのですね。それでせがれ[#「せがれ」に傍点]の陳述と物的証拠とやらがぴったり合致しているというのですか? そういうはずはありますまい。」
 老教授の顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]筋《せつじゅきん》はぴりぴりと顫動《せんどう》し、蒼ざめた顔には、さっ[#「さっ」に傍点]と血の色がのぼった。それも無理もない、息子の生死のわかれ目なのだ。
「まあ落ちついて下さい。今も申し上げたように、私は過失であるとかたく信じているのです。けれども、あなたが、御子息の陳述と物的証拠とが合致しておるはずがない[#「はずがない」に傍点]とおっしゃるのも妙ですね
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