すぐにつめたくかたくなっているというようなことは、とりのぼせた御子息をだますことはできても、裁判官をだますにはあまりに子供じみています。しかも、その上に、寝台と戸の格子とに妙な糸がくっついており、おまけに、寝台にはあなたと御子息と以外に、もう一人の男の指紋がべたべたついているのです。」
「それは誰の指紋です?」
「犯人の指紋です。もちろん犯人は林なのです。彼は前の晩にちょうど死体の発見された台所で兇行を演じて、嫌疑をそらすために、死体を玄関へもってゆき、玄関の戸をあけると、玄関の壁にもたせてある寝台が倒れるように、寝台と戸とを糸でむすびつけ、女が偶然その下になって死んだように見せかけようとしたのです。そのあとで御子息が玄関の戸をあけられたのでああいうことになり、それをまたあなたが知って死体を台所へつれてゆくというようなことになったのです。」
「そうとは知らず小細工を弄して何とも恐縮に堪えません。」教授は不思議な物語に驚きながら恐縮して言った。
「ところが、あなたの小細工が犯人の自白を早めたのです。というのは、どういう偶然か、天罰か、ちょうど林があの女をステッキで殴り殺した場所へ、寸分た
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