しの言うことをきいて驚いていなさる。あなたは、あの事件の犯人が御子息だと思いこんで、死体を他の場所へうつしたり、死体にナイフをつきさそうとしたりして、それで、御子息の陳述と現場の証拠とをちぐはぐ[#「ちぐはぐ」に傍点]にして、御子息が精神に異状を呈しているという証拠をつくり出そうとしなさったのです。ところが、御子息がどの道無罪になりそうもないと見てとって、今日は、とうとう自分が犯人だというような、大胆な自白をなさったのです。わたしにも子供があります。あなたの親としてのお心持ちはよくわかります。子供のためには、親はどんな馬鹿なことでもするものです……」
 判事の眼にも教授の眼にも涙が浮んだ。
「それにこの事件は最初からわかりきっていたのです。第一、わたしには物理学はわかりませんが、経験から考えてもあの寝台の倒れる力ぐらいで人間は死ぬものではありません。いわんや、起《た》っている人間が、うん[#「うん」に傍点]ともすん[#「すん」に傍点]とも言わずに即死するわけは絶対にありません。それに、御子息の陳述をきくと死体はかたくなっており、氷のように冷たかったということですが、即死した人間の死体が
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