わかっておるのですが、どうもせがれ[#「せがれ」に傍点]の奴がかわいそうでしてね。あれ[#「あれ」に傍点]はほんとうに近頃頭をどうかしているのですから、ついつまらんことを口走って、取り返しのつかんようなことになっては大変だと、それが心配になるものですから、こうして毎日のようにうるさくお邪魔にあがるような次第で……嫌疑が晴れて出て来たら、まあ当分海岸へでも転地さして、ゆっくり頭の養生をさせようと思っとるのです。どうも時々妙な発作を……」
予審判事は、原田老教授の言葉を中途で遮《さえ》ぎって、たしなめるように、それでいて、厳然たる命令的な語調で言った。
「そんなことはおっしゃらん方がよいと思いますね。御子息の身体のことは、専門の医者に診察さして、ちゃんとわかっているのですから。あなたが余計なことをおっしゃると、かえって御子息のために不利益になりますよ。」
老教授の立場は、駄目と知りつつ藁《わら》すべにでも縋《すが》りつこうとする溺《おぼ》れる者の立場である。
「で医者はなんと申しましたか? やっぱりせがれを精神病と鑑定したでしょうな?」
おずおずと彼は相手の顔をのぞきこんだ。
「今も
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