「ふものが、文学作品を決定する重要な条件の一つであることを明瞭に語つてゐる。
 しかし、吾々は、一層間接的ではあるが、その代り一層広汎な第三の条件を忘れてはならぬ。それは作者をとりまいてゐる一般公衆である。一般公衆の思想、観念、感情、一言で言へば、イデオロギイは、文学の流派そのものを決定し文学作品の作者の思想傾向を決定し、それによつて作品そのものを決定する最後の条件である。たとへば、ヴイクトル・ユゴオの『レ・ミゼラブル』を例にとらう。私たちは、先づこの作品にユゴオの個人性の強い現はれを見る。次にユゴオがその指導者の最も輝ける一人であつたロマンチツク派の特色をそこに見る。そして最後に、ロマンチスムの文学がその中で生育したところの当時の一般公衆のイデオロギイ即ちブルジヨアジーの勃興期のイデオロギイをそこに見るのである。
 一の文学作品を、社会学的に考察せんとするならば、吾々は、その前に、まづ、以上の如き分析と概括との過程を経なければならぬ。かやうな、分析と概括との過程を経て、はじめて、文学作品は、一の社会事実としてあらはれて来るのであつて、これ等の過程を経ずして、いきなり、ある文学作品を社
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