ワつたと言つてよい。学としての文学の可能なることは、従つて、こゝで疑問とする必要はないのである。
文学作品に課せられる第一の条件は作者である。作者の天分、気質、性格、境遇、趣味、思想、年齢、一言にして言へば作者の個人性は、文学作品を決定する第一の条件である。これは何人も否む能はざる事実である。シエーキスピアの作品には、どれを見ても、シエーキスピアの個人性が深くきざまれてゐて、注意深い観察者には、それがはつきりと感知できるであらう。スタイルの上に、手法の上に、表現の上に、思想の上に、用語の上に、まぎれもない個人性の刻印を看取することができるであらう。この個人性、独創性を没却して文学作品を論ずることは不可能である。ところが、信ずべからざることであるが、文学作品に於ける個人性を認めないやうな文学論が、最近には稀にある。文学活動を、すつかり、社会的環境によつて直接に決定されるものであるとする、ラヂカルな決定論の如きがそれである。しかし、かくの如き決定論が最近にあらはれたことは、別に不思議ではない。それは、従来の文学論に於て、此の個人性が、分析することのできない不可侵なものとして文学作品を決定
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