トゐることは、ここでは不問に附する。たゞ自然主義文学が、如何に自然科学に刺戟されて起つたものであるかを一二の例によつて示すだけにとゞめておく。
自然科学は、自然界に起る凡ての現象は、因果関係によつて決定されてゐることを信条とする。そして、前世紀に於て様々な科学者の努力によりて、自然現象の因果関係は次々に証明されていつた。この自然科学の偉大なる業績は、単に物質文明を一変させたのみならず、精神文化をも一変させるに十分であつた。
自然現象が因果関係によりて決定されてゐるとすれば、人間の活動も亦因果関係によつて決定されてゐるのではなからうか? かゝる思想は誰の頭にも自然に浮んで来る思想である。そして自然主義文学者は、この疑問に対して「然り」と答へたのである。
自然主義小説はフロオベルにはじまつたといはれてゐる。彼は、小説は、客観的であり、非個人的でなければならぬと主張し、人生の諸々の現象に対して小説家は非感傷的でなければならぬと信じた。それは、ちやうど科学者が自然物に対してとるべき態度と相通じてゐる。そしてランソンが言つてゐるやうに、この点では、自然主義は、古典主義への接近であり、古典主
前へ
次へ
全35ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平林 初之輔 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング