髞マ瑣な形式の破壊を特色としてゐる。経済上に於ける自由主義は政治上の自由主義となつてフランス大革命を爆発させたのであるが、その同じ自由主義が、文学にあらはれてロマンチスムとなつて、古典文学の約束、慣例を一蹴したのであつた。ラシイヌの悲劇とユゴオのドラマとを比べて見ると、前者は規則そのもの均斉そのものであるといふ感じを与へるに反し、後者は無秩序そのものであるといふ感じを抱かせる。外見上に於ける無秩序は、内容上に於ける無秩序をも伴つた。そこには、新興階級の奔放な、解放された情熱が、何等の制約をも受けずに跳躍してゐる。
 当時ブルジヨア階級にとつては、すぐ未来に『約束の国』『薔薇色の世界』が展開されてゐたのである。彼等は経済的には貴族の地位を奪ひ、政治的にも貴族政治を倒壊して第三階級のヘゲモニイを確立した。そこで観念的にも貴族を征服しなければならぬ。ロマンチスムの文学は、実に文学の戦線に於けるブルジヨア階級の貴族に対する闘争の表白であつたといへる。
 もとより闘争といふのは必ずしも文字通りに解する必要はない。ロマンチスムの文学には悲しみや憂欝を主題としたものが決して少くない。それどころか、ロ
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