オか経済関係或はその他の単一な条件の影響を受けてゐないのである。そこには無数の因素が存するのである。
 私が以上に述べた文学研究の方法論は、大部分テエヌの祖述である。たゞ私は、テエヌの芸術論のもつてゐる自然科学的面貌にかふるに、社会科学的相貌をもつてした。これは、主として、史的唯物論の方法に負ふのである。そしてこの方法は今日までのところではプレハノフに最も多く負ふのであるが、今はプレハノフの方法論には深く触れないことにしておく。

         下編 其の適用

         一

 近代の文学を最も大づかみにわけるならば、古典主義、浪漫主義、自然主義の三つに分けることができるであらう。私はこの短かい論稿に於ては、この三つの文学が、如何なる社会的条件に制約されて発生し、発達し、衰頽していつたかを辿ることで満足しなければならぬ。自然主義以後にも、重要な文学の諸流派が起つたことは事実であるが、それらは、あまりに雑多性と複雑性とに富んでをり、且つ、それらの起つた時代が、あまりに現代に接近し過ぎてゐるために、科学的研究の素材とするには不適当でもあるし、私の現在の企画は、たゞ、私の研究方
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