J働過程の芸術的再現に制限されてゐた。此の事は吾々の知り得る最近の発達段階に立つ狩猟民族に於いて特に顕著である。正にその故に吾々は原始人の心理がその経済的活動に倚憑することを証明するに当つて、主として狩猟民族を引例したのであつた。之に反して階級に分裂せる社会に於いては、此の活動の直接の[#「直接の」に傍点]作用は、前の場合ほど顕著でない。その理由も明白である。例へばオーストラリヤの土人の婦女にあつては、舞踊は草根採取の運動の再現たるのであるが、さりとて十八世紀のフランスの貴婦人たちの優美な舞踏の一つが、何等かの生産的活動を表現するものと推定することは勿論できない。此の種の婦人は一般に全然生産的労働に従事することなく、専ら『やさしき恋愛の学問』に耽つてゐたのであつた。オーストラリヤの土人の舞踏を理解するためには、婦人による草根採取が、この種族の生活に於いて如何なる役割をつとめるかを知れば足りるのである。けれども、ムニユエを理解するためには、十八世紀のフランスの経済を知つてゐるだけでは不十分である。此の場合には、非生産階級の心理を表白するところの舞踏が問題たるのである。此の種の心理によつて
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