閨Aその社会の経済条件だけから、直接にその作品を論じたりするのが間違ひであると同様に、作者の天分のみから作品の価値を論じようとするのも無暴であることは、以上述べたところによりてわかるであらう。
 ある文学作品の意義、価値を、科学的に決定するためには、作者の研究、作者の属する流派の研究、その時代の一般的イデオロギイの研究が必要であることになり、更にこのイデオロギイを十分に理解するためには、その時代の社会の、法制、政治、経済等の条件を審かにし、更にその社会のよつて立つ自然的環境をも探らねばならぬ。かくして吾々は、一の文学作品の科学的認識に到達したと言へるであらう。
 理解の便のために、これを図式であらはすと上の如くなる。
 社会生活が単純であつた時代には、この関係も単純である。たとへば、太古の狩猟民族にあつては、狩猟といふ生産様式が、直接に芸術の内容を条件づけてゐるが如くである。
 ロシヤのマルクス主義の碩学プレハノフは、此の[#「此の」は底本では「比の」]問題について興味あるワラツシエツクの説を引用してゐる。
「ワラツシエツクは原始民族の演劇の起源に関する自己の見解を次の如く要約してゐる
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