がすつかり徒労であつたと早合点してしまつた。そして、彼等の事業をひきついで、これを修正し、大成してゆかうとつとめるかはりに、再び神秘の中へ廻れ右をした。元来或る理論の体系を一個人の一生で完成することは、不可能と言つてもよい程困難なことである。ことに神秘の雲の深くとざさしてゐる処女地を開拓する場合に於ては、この困難は一層甚だしい。ほんの、大まかな理論の輪廓を印しづけることだけでも、人間の一代を要することは大いにあり得ることである。自然主義文学の理論家の業績を、私たちは、少しでも軽視してはならない。彼等は少なくも、混沌たる文学理論を体系化しようとし、かつ、或る程度までそれを成しとげたのだから。
 私たちは、真実の基礎の上にたてる研究は、その前途がどれ程荊棘に満ちてゐようとも、これを追及してゆかねばならぬ。思ひ思ひの独断の城廓にたてこもることは容易でもあり、かつ、文学理論の今日のやうな状態に於ては、それが功名心を満足させることにもなるかも知れない。だがしかし、それは、或る学問の系統的進歩に何等稗益するものではない。却つて、さういふ試みは、或る学問を混沌と無理論に導くものである。
 私が以上に
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