電気的性質、膠質状態の研究等、いろ/\な方面から、この神秘に肉薄し、既に生命物質を合成せんとする真面目な企図にまで発展してゐるのである。そして、種々の有機物質の合成が成功したこと、生命物質を人工的要約のもとに発育せしめることが成功したこと等は、研究者たちを勇気づけ、その研究の前途に少からぬ光明を投げつゝあるのである。私たちは、未だ生命の神秘を分析しつくしてはゐない。けれども他日――早かれおそかれ――それが分析されるだらうことを十分に期待し得るのである。
 かくの如き自然科学の方面に於ける、研究者の孜々たる努力と、赫々たる成果とから眼を転じて文学理論の混沌たる現状を見ると、そこには、得体の知れない神秘主義が大手をふつて歩いてゐる。そして、殆んど誰もが、それをとがめようとしない。たゞ私たちは、過去に於て、自然主義の文学理論の中に、はじめて、文学の神秘を解剖せんとする努力を見た。しかし、性急な理論家たちは――文学者は科学者のやうな忍耐力を欠いてゐる――問題が一挙に解決されなかつたために、問題は解決すべからざるものであると断念した。ゾラやテエヌの説が不完全であつたものだから、彼等の事業そのもの
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