の解答として私たちは、少くも次の三つを期待することができる。
 A、文学とは、私たちが、その思想感情を表現するにあたつてとる一つの形式であつて、発表或は表現そのものが既に文学の目的であり、それ以外に目的はない。
 B、文学の目的は、読者をよろこばすことにある。作者の発表欲、表現欲を満足させることではなくて、読者に、高雅な情操を起させることである。
 C、文学の目的は、啓蒙的なものである。文学作品は読者を教へるものをもつてゐなければならぬ。それによつて人生を、社会をよりよくするものでなければならぬ。
 以上の三つの目的に随つて、文学の理論はそれ/″\異つた体系をもち得る。しかるに、前節に於て、私が述べた理由によりて、これ等の異つた体系の並立は許されない。こゝに於て、問題は、一転して解きがたい紛糾の中に入るやうに見える、だが、それはほんとうにさうなのであらうか?
 私は以上のうちのどれか一つを、これこそ真の文学の目的であるとする説にはくみしがたい。理論といふものは成るべく単純な程よい。しかし、真理はあまり単純でない場合がある。単純でない真理を、単純な理論で把握しようとする時、真理は理論から
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