頭と足
平林初之輔

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)里村《さとむら》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)A新聞の記者|田中《たなか》

[#]:入力者注 主に外字の注記や傍点の位置の指定
(例)[#地付き](一九二六年二月号)
−−

     一

 船が港へ近づくにつれて、船の中で起った先刻の悲劇よりも何よりも、新聞記者である里村《さとむら》の心を支配したのは、如何にしてこの事件をいち早く本社に報道するかという職業意識であった。
 彼は、社へ発送すべき電文の原稿はもうしたためている。しかし、同じ船の中に、自分の社とふだんから競争の地位にたっているA新聞の記者|田中《たなか》がちゃんと乗りあわせて、矢張り電文の原稿は書いてしまって現に自分のそばに、何げない様子をして自分と話をしている。その様子は如何にも自信に満ちた様子である。港には郵便局は一つしかない、従って送信機も一つしかない勘定だ。どちらかさきに郵便局へ着いた方がそれを何分間でも何時間でも独占できるのだ。郵便局は波止場から十町もはなれているという。して見れば体力のすぐれている田中
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平林 初之輔 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング