ません」まださっきのつりものこっておりますが、あなたの電報の分が至急報で五円三十銭と、それにわっちゃあ、親類じゅうへ合計十三本も用もない電報をうちましたぜ」
「そりゃどうも有り難う、おかげであの男の方は夕刊に間にあいっこなしだ、なにつりはとっときたまえ」
     ×     ×     ×     ×
「要するにあの場合、船から一番先きに降りるものは誰かってことに気がついたのは吾ながら感心だて、船員のうちには必ず船客より先へ降りる者があるってことに気がつくなんざ頭のいいもんだなあ。お蔭で来月あたりは昇給かな。田中の奴、おれが息せききってかけつけたと思っているが、豈《あに》計らんや、俺は、煙草をふかしながら見物のつもりでやって来たのだ。あんまり気の毒だから局の前でちょっと駈足のまねをして見たがね。気の毒といえば、このことをすぐに奴に知らせるのもあんまり気の毒すぎるから、一つあいつの女房のとこへでも電報を打って俺の頭のよさを自慢してやろうかな」
 里村は途々《みちみち》ひとり考えて悦に入った。
[#地付き](一九二六年二月号)



底本:「「探偵趣味」傑作選 幻の探偵雑誌2」光文社文庫
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