ろされてから。でも妾《わたし》にだけはちょっと位見せて下さってもいいでしょう。妾《わたし》、ぜひ見たいわ、どんな様子で育っているのか……」
「それだけはいけませんね。それに実験は絶対暗黒の中で行われているんですから、見ることはできませんよ。そして絶対安静なコンデションが必要なんです。まあ、実験が成功するまで待ってて下さい。今度の実験は私の生命と名誉とをかけての実験ですから、万一しくじったら私は何もかも破滅なんだから」
永い四月の日も暮れちかくなった頃二人は実験室を出て、桜の花の散りしいている庭づたいに博士の自邸の裏口から中へ消えていった。
3
「お父さん、犬はなんて泣くか知ってるかい?」
「犬はわんわんって泣くさ」
「そりゃ日本の犬さ、西洋の犬はどういって泣くか知ってる?」
「西洋の犬だって同じさ」
「うそだよ。お父さんは知らないんだなあ。西洋の犬はね、バウワウってなくんだよ。リーダーにそう書いてあるよ。ほら、ザ・ドッグ・バークス・バウワウ」
「お父さま、百|日紅《にちこう》と書いてどうしてサルスベリと訓《よ》むんですか?」
「むずかしい質問だね、お父さんは知りませ
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