」
彼女は近頃の村木夫人の眼に一種の嫉妬の光りがしつこく宿っていることに気がついていた。夫人は、相変らず房子に愛想がよかったし、嫉妬らしい素振りは第三者から見ると微塵もなかったのであるが、当人にとっては、夫人の態度がやさしければやさしいだけ、よけいと何かしら強烈な光線で射られているような気がするのである。心の底まで見すかされているような気がして、鷲の前へ出た小鳥のようにいすくまって、まともに相手の顔を見ることすらもできぬのである。
すべての事情が彼女にとっては不愉快で恐ろしかった。しかし今更らどうにもできないように思われた。博士に相談しても彼は簡単に事実を打ち消すばかりで取りつく島がない。
「博士はほんとうに妾《わたし》を愛していて下さるのだろうか? もし夫人か妾《わたし》かどっちかを、すてなければならぬ場合になったら、どうなさるだろう?」
彼女はこの疑問に対して全く自信をもっていなかった。勿論、子供もあり、永年つれそって来た、そして容貌からいっても自分以上に美しい、少なくともととのった夫人に対して彼女は太刀討ちができないように思った。彼女の相貌は急にけわしくなって来た。女には生
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