、例の人造人間の実験をはじめてからは、一切の訪問客を謝絶し、実験室へは、助手の内藤女史以外は、家族の者でも出入することを厳禁していた。
「もう七時になりましたよ。学校へいっていらっしゃい」
 父子が遊んでいるところへこう言いながら村木夫人がはいって来た。夫人は三十を三つ四つ越しているのだけれど、まだ二十台に見える若さを保っていた。
「お父さん行ってまいります」
「お母さん行ってまいります」
 二人の子供は小鳥のように快活に部屋を出て行った。
「今朝もまた三人も新聞記者が来ましたよ」彼女は夫のそばに腰をかけながら言った。
「うるさいね、新聞記者なんかに何がわかるものか」
 博士はそっぽを向いたまま、ぷっと煙草の煙を吐き出してこう言った。
「でもね、そのうちの一人がこんな事を言うのですよ。先生の実験が成功したら、その子供の籍はどうなるのですなんて」
 彼女は夫の顔をはすかいに見ながら言った。博士は石像のようにだまっていた。
「ほんとうに、それはどうなるんでしょうね。妾《わたし》も承りたいわ」
 博士の眉間には縦に大きい皺がよった。しかしそれはすぐに消えて、またいつもの温顔に返った。
「学者
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