面してゐるやうに感じさせ、読者をして絶えず「これからどうすればいいだらう?」“Now what am I going to do ?”と手に汗を握らせることである。だが、あまりにこの点を誇張しすぎて信ずべからざるやうな筋をこしらへると読者は書物を投げ出してしまふ。「冬来りなば」の成功は大部分は一般の読者がマーク・セーバーに共感するためであり、この小説を好まない人はエフイーの挿話があまりありさうもない話であることをこの小説の欠点と見做すのである。
 第三に、前にも言つたことであるが、最も良く売れる小説である為めにはハツピー・エンデイングの小説であることが必要である。といつても悲痛な要素がストーリイの中にあつてはいけないといふことを意味するのでなく、却つて作中の人物のうける苦悩、迫害、不幸が多ければ多いほどハツピー・エンデイングの効果は増して来るのであることを注意しなければならぬ。
 第四に、良く売れる小説には、はつきりした、テーマ或はモラルが物語全体に浸透してゐなければならぬ。即ちそのストーリイがたゞの話よりも極く少しく高尚で、普通読者の胸を打つ何物かをもつてゐなければならぬ。
 最後に
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