であることは認めたが、マルクス主義文学の場合には、政治的価値が優位を占めなければならぬと言つたまでゞある。
 この関係は、大衆文学に於ける、芸術的価値と商業的価値との場合にも全く同じである。この二つの価値は互に排撃しあふものではないが、大衆文学の作品の場合には、後者が前者よりも重要視され、後者を十分に発揮するためには前者は幾分犠牲にされることもある。尤もマルクス主義文学の場合にも、大衆文学の場合にも、二つの価値が、それ/″\最高度に到達してゐる場合、即ち、前の場合では芸術的にもすぐれてゐながら、政治的目的にもかなひ、後者の場合には、芸術的にもすぐれてゐながら、大衆性をももつてゐる場合が、最も完全な、最も望ましい場合であるが、その場合でも私たちは、二つの価値構成要素を矢張り分析し得るのである。

            二

 近代文学に於いて最も大衆性をもつてゐるものは小説である。これは最近に於ける各国の出版物の中で、発行部数に於いても、書物の数に於いても嶄然と他を抜いてゐるものは小説であるといふ一事がよく証明してゐる。
 では小説は何故かくも多数の人々に読まれるか? マイケル・ジヨセ
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