ことは、氏自身の頭脳の整理のために必要なことだ。
「問題の後戻りは運動の実践にとつては不利益だ」と川口氏は言はれる。だが問題を矛盾のまゝに残し、何一つ整理しないで頭の中へごちやごちやに詰めこんで、先へ/\とパツスしてゆくのは更に不利益だ。マルクスは川口氏とは反対に、プロレタリアの闘争は、一進一退、進んだかと思ふと又退き、征服したものを更に征服しなほさねばならぬ、非常な忍耐を要する闘争だと言つてゐる。
 青野季吉氏はつい二年前に、「コンミユニストの文学観はたしかにまだ組織されてゐない、……プロレタリアの文学観の建設は今日、世界の共同の仕事なのである。……そんなわけでマルクス主義の文学観を示せと言はれたつて、私たちは何の恥づるところも無く、そんなものゝ持ち合せはありませぬと率直に、ぶつきら棒に答へるより外はないのである」(新潮、昭和二年五月号所載「マルクス主義文学観について」)と言つてゐる。二年の間にそれ程事情が変つたと思はない私は、今もなほ青野氏のこの言葉は大部分真実であると思ふ。だから私は外の理由でなら兎も角、川口氏の粗雑極まる芸術論を支持しないからといふ理由で、「彼は非マルクス主義的
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