あらう。
 芸術でなく、わかりやすいために大砲を考へて見よう。大砲の価値は社会的価値であるとする勝本、大宅氏等の考へ方は、それだけでは正しい。だが、大砲の価値が、政治的価値であるとか、階級的価値であるとかいふことは何を意味するか。大砲の価値を生ぜしめるものは、その破壊力である。(芸術の価値を生ぜしめるものが人と人とを感情的に結合する等々にあるが如く)この価値は、ブルジヨアの武器として用ひられる時と、プロレタリアの武器として用ゐられる時とでは目的がちがふ。だが両者ともに大砲の破壊力を利用するので、それがなくなつてしまへば、ブルジヨアにもプロレタリアにも大砲としての価値は消滅する。階級によつてかはるのは大砲の筒先の方向だけである。芸術も同様に、階級によつて、異つた方向への歪みを受ける。だが精巧な大砲はどの階級が用ゐても強力な武器となるやうに、すぐれた芸術作品はどの階級から生産されても有力な効果をもつ。芸術の価値を政治的価値乃至階級的価値にのみ局限するのは、社会的価値としての芸術価値をも拒むことになり、階級といふものが、魔法使のやうに凡てのものに価値を与へたり、とりあげたりすることを許すこと
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