ず、社会的価値をもつてはゐなかつたが、人間がこれを水車に利用し、これを利用して発電所を設けるやうになると、社会的価値を獲得して来る。その逆に汽船ルシタニア号はそれが人間や貨物を積んで太洋を横断してゐる限りに於ては、即ち社会的存在であつた限りに於ては社会的価値をもつたが、それが海底に沈んでしまつた、その瞬間からそれのもつてゐた一切の社会的価値は消滅して自然物に帰する。
 文学作品も、それが社会的に生産され、且つ、社会的に利用されるものである以上、社会的価値をもつものであることは勿論である。だがそのために文学作品の芸術としての価値即ち芸術価値は何等の独自性をもたぬことになるだらうか?
 疑ひもなく、近世に於ける社会科学の発達は、社会の諸現象を、ばら/\に独立して存在するものでなく、相互依存の関係にあるものとして理解する方法を確立した。私たちは今や社会の諸現象を統一的に説明し、理解することが或る程度までゞきるやうになつたし、今後社会科学の発達は、この見解を益々助長し、完成せしめてゆくであらう。これは自然科学に於いても見られるところの傾向であつて、両者は相まつて、私たちの統一的世界観の確立に貢
前へ 次へ
全45ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平林 初之輔 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング