ら中央線に乗りかえて牛込駅まで行って駅にトランクを預けておいて、それから江戸川橋まで市内電車で来たにちがいありません。兇行は無論前から計画してあったので、それからすぐに予定どおりに行われたのでしょう。兇行をおえると犯人は、現場《げんじょう》に証拠をのこさないようにと用心して状差しにさしてあった手紙類をすっかり火鉢の中で焼きすてたのです。そしてただ、自分が名古屋からうった電報と大宅が当日被害者の家へ来るといって寄越した手紙とだけを取りのけて、それを被害者の袂《たもと》の中へ入れておいたのです。勿論、電報の方はその男の現場不在証明になるし、手紙の方は大宅の方へ嫌疑がむくようになるからです。これは犯人の指紋をしらべて見ればすぐわかります。火鉢の中には実際手紙を焼いたあとがありましたよ。私は先刻《さっき》よく見てきました。それだけ用心しておきながら犯人の大手抜かりは、手紙の上書《うわがき》に血の指紋を残したこと、静岡で買った新聞を不注意にも現場にのこしておいたことです」
「しかし」佐々木警部はまだ上野の説に不服そうに口をはさんだ。「貴方の仰言《おっしゃ》る犯人というのが木見のことであるなら、あ
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