犯人がここへやって来て何もかも白状しますからね」と上野は佐々木の言葉を中途で遮《さえぎ》って言った。
「大宅以外の犯人というのは誰のことです」と佐々木は少し気色《けしき》ばんで反問した。
「先刻《さっき》も申し上げたように昨日静岡をとおって帰った男ですよ。いいですか。犯人は昨日の朝七時二分に被害者に宛てて名古屋から電報を打って、急用ができたから中央線で松本《まつもと》へ廻って翌日東京へ帰ると言ってよこしたのですよ。中央線へ廻って松本へ寄ったりしておれば、昨日中に東京へ帰ることはできませんから無理もないですね。ところが警察医の検証によると被害者が兇行を受けたのは昨日のまだ明るいうちだということでしょう。一寸見ると犯人のために立派にアリバイが成立しているですね。ところが、その実彼は、電報をうったあとで七時二十分名古屋発の汽車にのって東海道線で真っ直《すぐ》に東京へ帰ったのです。静岡か沼津《ぬまづ》かあの辺で新聞を買ってね。その汽車が東京へつくのは四時五十五分です。すればそれからすぐ電車で行けば明るいうち[#「明るいうち」に傍点]に山吹町まで十分行けるじゃありませんか。きっとあの男は東京駅か
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