の佐々木《ささき》警部に向って、彼は一寸《ちょっと》パイプを口からはずしてたずねた。
「そうですな。」と佐々木警部は相手にも椅子《いす》をすすめながら、自分も椅子に腰を下《おろ》して徐《おもむ》ろに言った。「例の手紙の差出人がやっとわかりましてね、これから検挙に向うところです」
「すると差出人は新聞に出ていたのとはちがうんですな?」
「そういうわけでもないのですが、何しろ相手が官吏ですからな、××省へ行って、本人が果して実在の人物か否かをしらべ、本人の自宅の番地などもききたださねばならず、筆蹟などもよくくらべて見て、愈々《いよいよ》それにちがいないことをたしかめるには、新聞記者があてずっぽうに書きなぐるのとはひまがかかる点は認めていただきたいですな」
「でその大宅という男に嫌疑がかかっているわけですな?」
「まあそうです。」
「ほかに何か新しい材料は?」
「別に……そうそう、今朝被害者宛に電報が来ましてね。発信人は矢張りキミという男で、甲府《こうふ》の駅から打っているのです。今朝の四時二十分の発信で、配達されたのは六時半頃だったそうです。文面はたしか『一○ジ二一フンイイダマチツクエキマ
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