のだ。それで光子からその手紙がつく度《たび》に、嘉子の心が平らかでなかったことは、言うまでもなかった。嘉子は明《あきら》かに二人の関係を誤解しているのだし、誰だって誤解するにきまったような関係でもあったのだ。
ことに、昨日の朝着いた光子からの手紙には、是非今日会って話したいことがあると書いてあったので、それがもとになって、彼が光子にまだ仕送りをつづけているのはあまりに嘉子をふみつけにしたしうちだと、嘉子が涙ぐんで食ってかかったのをきっかけに、今朝《けさ》、役所へ出がけに二人は同棲後はじめてひどい喧嘩《けんか》をしたのであった。三四郎の方では、光子に対して何等《なんら》疚《やま》しい関係はないということ、男子が一たん約束をした以上は、何とか相手の身のふりかたがきまるまでは約束をやぶるわけにはゆかないことを意地になって言い張ったので、とうとう喧嘩別れになったままで彼は出ていったのであった。嘉子は嘉子で「これから妾《わたし》が光子さんに会ってじかに話をきめてきます」と捨台詞《すてぜりふ》をのこして三四郎にわかれたのだった。
ところが三四郎が役所から帰りに光子の家へ来て見ると、光子はもう屍
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