らんだのだ。それから、今度の浅野の自殺は、新聞にある通り、事業の失敗による精神過労の結果発狂したためだ。どの事件もみんな別々に、互に無関係に起っているのだ。ただ君たちのような法律家は、これを偶然の暗合としてすませないで、是非とも『真相を解決』しようとするんだ。とまあ僕は解釈するね」 
     ×    ×     ×
 正直に白状するが、私には今だにこの事件の真相はわからない。私の解釈にも多少理由があるように思う。瀬川の解釈にも動かし難い真理があるように思う。しかし、私の解釈の証拠は浅野が死んだ以上|堙滅《いんめつ》してしまっている。瀬川の解釈は自然を証人にたてるよりほかには法廷の問題にはならぬ。して見ると周囲の事情は依然として哀れな今村に最も不利である。私には依然としてこの事件の弁論に対する自信はない。考えて見ると弁論そのものがいやになって来る。人間には人間をさばく力がないのだ。わかりきった過誤をも私は現在の法律では証明することができないのだ。
 こんなことを考えて来ると私は弁護士という職業を廃業するより外に道がないような気もする。しかし、どんな職業だって同じだという気もする。それ
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