ュという青物屋と同じ待遇を彼等は世間から受けなければならんのだ。最後に、本人はまだ知らずにいるが、細君はあの事件に証人としてよばれるやら何やらで胆をつぶして月足らずで流産し、彼の空想の楽しい糧《かて》であった愛子は、闇から闇に葬られている。細君は国元へひきとられて、もう二度と東京の土をふまぬようにと親戚からさとされている。これを今村が知ったらどうだろう。彼の空想の幸福は、要するに、一寸した間違いのために、精神的にも、物質的にも、家庭的にも、すっかり廃墟となってしまって、それを再建するよすがはないのである。私は、むしろ、彼を永久に未決監において、せめても一|縷《る》の空想を楽しみながら世を去らせてやりたいと思う位だ。

     九、補遺――真犯人は誰か?

 私はこの物語を以上で終るつもりでいた。ところが今村の公判もまぢかに迫った最近ちょっとした事件が起ったので、それを補遺として書き添えておくのを適当だと思った。何故かなら、たとえ正確にはわからなかったにしても、此の事件の真犯人について私が何の意見ものべなかったのは一部の読者を失望させただろうからである。
 数日前、私は少し調べ物をする
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