末をつけて貰いたい。その代り、ここからはやく出して貰いたい。この光を奪われた底冷たい無気味な部屋にいることだけは一分間でも辛棒ができん。彼は死刑台へでもよいから、はやくこの部屋を出してつれていってほしいと思った。
六、板倉刑事課長の審問
約二十分経った。彼にはそれが数時間のように思われた。
家畜小屋の閂《かんぬき》のような、非美術的極まる留置室の扉が、此の上なく野蛮な音をたてて、ごりごりときしみながら開いた。生れおちるとから、罪人以外の人間には接触したことのないような、型にはまった三人の警官が物々しい様子をして外に立っている。
「此処へ来い」
そのうちの一人が錻力《ブリキ》を叩くような声で命令した。彼は奴隷のように柔順にだまって出て行った。
三人の頑固な警官が、彼を、まるで危険な猛獣か何かのように、物々しく三方から護衛しながら、燦然《さんぜん》と電灯の光のてらしている大きな西洋室へつれて行った。
今村は、日光をおそれる土龍《もぐら》のように、明るい部屋へ出るのが気まりがわるかった。彼は、数時間前から、彼の身にふりかかって来たあまりに急激な変化のために、以前の自分
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