と批難するものがある。然しながら、ゾラによれば実験小説家は決定論者ではあるが、宿命論者ではない。なる程、実験小説家は自然法則の外へは出ない。自然法則の中にありて現象の生起する条件をさぐる。けれども彼等はそれだけではない。彼等は現象の決定性を変更する。例へば環境に向つてはたらきかけ、この環境をかへることができる。自由と無知とが同義語でないやうに、自然法則を知り、これを認めることは、これに盲従することを意味するものではない。宿命論と決定論とは全く別のものである。
          ×       ×       ×       ×
 エミイル・ゾラはこゝで主として小説について論じてゐる。彼は文学の他の品種についてどう考へてゐたゞらうか? 彼はこの論文の最後で次のやうに言つてゐる。
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『私は実験小説についてしか論じなかつたが、実験的方法は、史学及び批評を征服し、やがて、劇及び詩をさへも征服するであらうとかたく信じてゐる。これは避くべからざる進化である。』
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 さて、私は、ゾラの方法論を詳細に批評するつもりで、この紹介にとりかゝつたのであるが、限
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