家の役割は、これを理想主義小説家と比較することによりて一層鮮明となる。こゝで理想主義小説家といふのは、観察と実験とを無視して、超自然的な、不合理なものにその作品の基礎をおき、現象の決定性を逸脱した、神秘的な力をゆるす作家のことである。
実験小説家の真の任務は、既知の事柄から出発して未知の事柄を探り求め自然を科学的に知悉することである。理想主義小説家は、未知なものは既知のものより美しく尊いものであるといふ馬鹿げた口実のもとに未知なものに甘んじてゐる。自然主義小説家は、如何なるものにも観察と実験とを用ふるが、理想主義小説家は分析することのできない神秘力をみとめ、未知の中に、法則の外に安住しようとする。[#「。」は底本では「、」]もとより理想《イデアル》を念とするものを理想主義者と呼ぶなら、実験小説家も亦理想主義者である。たゞこゝでは未知の世界をよろこんで、そこへ逃避せんとする者のみを理想主義者と呼ぶのである。現象の決定性を認めないものを理想主義者と呼ぶのである。
実験小説家を宿命論者であると批難するものもある。実験小説家は、人間を、運命の鞭の下に動いてゆく家畜の群にひきさげるものである
前へ
次へ
全18ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平林 初之輔 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング