法的唯物論の立場からなされた、堂々たる述作であるといふことである。
 私も「社会問題講座」の一講座で、簡単にこの問題を論じたことがある。けれども、実を言へば、私は、この問題で独自の体系を述べるやうな程度の研究はまだ積んでゐないし、従つて、何等自信のない研究を急いで発表することは躊躇する。私はたゞ、種々の理由によりて、文芸作品は科学的研究の対象になり得るものであるといふこと、換言すれば文芸学(Literaturwissenschaft, Science of Literature[#「Literature」は底本では「Iiterature」])なるものが存在し得ること、そして、さういふ方面への研究が、今後の文芸批評家の重要な一つの任務であることを信ずるのみである。
 文芸作品を享楽し、鑑賞することのみが批評家の任務であると考へる人は、園芸家のほかに植物学者のあることを知らぬ人である。否園芸家にでも、通俗な植物学の知識は必要である。それがなければ花をたのしむことすら十分にできはしない。花が植物の生殖の器官であることを知つたゝめに花の美しさは減殺されるどころではなくて、却つて、そこに造花の至
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