ものが動いている。
「オーイ」と声を掛けると、「オーイ」と下の方で応呼する。
「西洞まではもう近いかァー。」と訊《き》くと「二里位はあるぞォー。」と言って草刈る手をやめて上を仰いでいる。まだ二里の路! 自分らは殆んど其処《そこ》に立ちすくまずにはいられなかった。気が付くと其処でも此処《ここ》でもザクザクと草刈る音がする。見ると路の直ぐ上の所にも馬を引いて来ている者が二組も三組もいる。
「何処かこの辺で泊めてくれる所はないかね。」と聞くと、「西洞まで行かっしゃれ、それまではねえだ。」といって、不思議そうに私らの方を見送っている。仕方がない西洞まで歩《あ》るくことにする。
路の両側には四、五尺にも余る草が伸びている。霧は次第に濃く群がってその草原の上を爬《は》っている。其処此処に大小の小屋が眼に這入る、今の草刈どもの泊る小屋に違いない。
草原を過ぎて松林となった。路は平かに広くなって遂に益田川の岸に出た。なかなかの急流だ、その岸を伝って走る。四辺が次第に暗くなって来るにつれて、ただ走るより外に法はない、再び機械的に走り出した。殆んど夢中に歩いた。何里位か判明《わか》らないが、山が低くな
前へ
次へ
全36ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
吉江 喬松 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング