霧の旅
吉江喬松

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)北國《ほくこく》街道の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)智將|宇佐美貞行《うさみさだゆき》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぼた/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 北國《ほくこく》街道の上には夏草がのびてゐた。
 柏原《かしはばら》から野尻湖まで一里ばかりの間、朝霧が深くかゝつてゐて、路上の草には露が重かつた。汽車をおりて初めて大地を踏んで行く草鞋の心持、久振で旅を味ふ心には、總てが鮮かに感じられた。
 柏原には一茶《いつさ》の俳諧寺《はいかいじ》の在ることは聞いてゐたが、霧が深くて見に行く氣にもなれなかつた。何處の國道沿ひにでも見る破驛《はえき》の姿は此村にも見られた。桑の葉の蒸されたやうな香ひと、上簇期《じやうぞくき》に近い夏蠶《なつこ》
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