こまやか》に見える……由三は死滅の境にでも踏込むだやうな感がして、ブラ下げてゐた肖像畫を隅ツこの方に抛《ほふ》り出した。そして洋燈[#「洋燈」は底本では「洋澄」]を灯《とも》した。微暗《ほのぐら》い火影は沈靜な……といふよりは停滞した空氣に漂《たゞよ》ツて、癈頽した家のボロを照らした。由三は近頃になく草臥れた兩足を投出して、ぐッたり机に凭れかゝツた。そして眼を瞑《つぶ》ツて何んといふことはなく考出した。フト肖像畫の綾さんの姿が眼前にちらついた……何んだか癈物でも購ツて來たやうに思はれてならぬ。で眼を啓けて隅ツこに抛出した肖像畫を熟と見詰めてゐたが、ツト立起ツて引ツ摺ふやうに肖像畫を取上げた。そして古新聞を被せたまゝでこツそり[#「こツそり」に傍点]戸棚の奥に抛込むだ。
少時すると由三は、何か此う馬鹿を見たやうな心持で、久しぶりで肉の味を味はツた。して由三は何時まで經ツても肖像畫を戸棚から出さなかッた。
底本:「三島霜川選集(中巻)」三島霜川選集刊行会
1979(昭和54)年11月20日発行
初出:「中央公論」
1908(明治41)年12月1日号
※「つくね[#「つ
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