リして眼だけは、處女《むすめ》の時其のまゝの濕みを有ツて、活々《いき/\》として奈何にも人を引付ける力があツた。
家の裡には矢張|鳥籠《とりかご》が幾ツもかけ[#「かけ」に傍点]てあツて、籠を飛廻ツてゐる目白の羽音が、パサ/\と靜に聞えた。前からある時計もチクチク鈍い音で時を刻むで、以前は無かツた月琴の三挺も壁にかゝツてゐた。
父は火鉢の許《とこ》に坐ツて、煙草を喫しながらジロリ/″\由三の樣子を瞶めて、ちよツくら口を利《き》かうともしない。そして時々ゴホン/″\咳込むで、蒼《あを》ざめた顔を眞ツ紅にしてゐた。前から無愛想な人だ。顔にはむくみ[#「むくみ」に傍点]が來てゐた。
由三は、其の甚《ひど》く衰弱してゐるのを見て、
「お惡いんですか。」と訊《き》くと、
「あ、」と横柄に謂ツテ、「肺に熱を持ツたといふことでな。」
と平氣で謂ツてケロリとしてゐる。
「可けませんナ。」
と顔を顰めると、
「何有《なあに》」と被《かぶ》せて「養生さへすれば可いといふことだが、何分家が此の通ぢやて、思はしく行かんのでナ。」
と隔《へだて》なく謂ツて苦笑する。
娘や家内は浴衣がけてゐるといふに、こ
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