。もう朝晩は秋の冷気が身に沁むほどだといふに、勝見一家の倦怠とやりツぱなし[#「やりツぱなし」に傍点]は、老巡査一家の其にも増して、障子を繕ツて入れるだけの面倒も見ない。雨でも降るとスッカリ雨戸を閉切《しめき》ツて親子|四《よ》人|微暗《ほのぐら》い裡《なか》に何がなしモゾクサしていじけ込むてゐる。天気の好い日でも格子戸の方の雨戸だけは閉切《しめき》ツて、臺所口から出入してゐる。幾ら水を換へて置いても、雨上《あめあが》りには屹度、手水鉢《てふづばち》の底に蚯蚓が四五匹づゝウヨ/\してゐた。家が古いから屋根から流れ込むのであらう。主人の由三は、卅を越した年を尚《ま》だ独身で、萬事母親に面倒を掛けてゐた。
由三は何処に勤めるでもない。何時も何か充《つま》らないやうな、物足りぬ顔で大きな古|机《づくえ》の前に坐り込むでゐるが、飽きるとゴロリ横になツて、貧乏揺をしながら何時とはなく眠ツて了ふ。何うかすると裏の田園に散歩に出掛けることもある。机の上には、いかな日でも原稿用紙と筆とが丁と揃ツてゐないことはないが、それでゐて滅多と原稿の纒ツた例《ためし》がない。頭がだらけ[#「だらけ」に傍点]きツ
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