ら可《い》いでせう。」
「そりや偶時《たま》には然《さ》う思はんでも無いな。併《しか》しお前は俺には用《よう》のある人間だ。」
「用なんか、下婢《げぢよ》で結構間に合ひますわ。」
「大きに御尤《ごもつとも》だ。だが下婢《げぢよ》は下婢《げぢよ》、妻《さい》は妻《さい》さ。下婢《げぢよ》で用が足りる位なら、世間の男は誰だツてうるさい[#「うるさい」に傍点]妻《さい》なんか持ちはしない。」
又かと思ふと氣持が惡くなつて胸が悶々《もだ/\》する。でも近子《ちかこ》は熟《じつ》と耐《こら》えて、
「然《さ》う有仰《おつしや》れば、女だツて仍且《やつぱり》然《さ》うでございませうよ。出來る事なら獨《ひとり》でゐた方が幾ら氣樂《きらく》だか知れやしません。」と冷《ひやゝか》にいふ。
「然《さ》うよ、奴隷《どれい》よりは自由民の方が好《よ》いからな。」
「然《さ》うですとも。」
「其《そ》んなら何故《なぜ》、お前は俺《おれ》のやうな所天《をつと》を擇《えら》んだんだ。」
「誰も貴方《あなた》を擇びはしませんよ。」と謂《い》ツて、少し顏を赧《あか》め、口籠《くちごも》ツてゐて、「貴方《あなた》の方で、
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